「ボクの背中には羽根がある」に込められた願い

KinKi Kidsの「ボクの背中には羽根がある」という曲をご存知だろうか。

2001年2月7日に発売された曲で、91.9万枚を売り上げた。剛さんが主演を務めた「向井荒太の動物日記〜愛犬ロシナンテの災難〜」の主題歌にもなり、誰もが一度は耳にしたことのある曲ではないかと思う。

作詞は松本隆氏、作曲は織田哲郎氏と一流アーティストを手掛ける豪華な顔ぶれとなった。この曲の大きな特徴と言えば、民族楽器を用いた哀愁漂うエキゾチックなメロディー。

彼らが「KinKi Kidsの方向性を変えた曲」と話すように、今の彼らがあるのはこの曲と出会えたから、そして、光一さんの願いが込められた、彼にとっても思い入れのある特別な曲だからではないだろうか。

 

ご存知の方も多いかと思うが、この曲のサビは「ずっと君と生きてくんだね」と始まる。君とだったらどんな夢だって叶えられる。君を抱いて空だって飛べるんだよ、嘘じゃない。どんな辛い未来が来たって、君とだったら乗り越えられる、と主人公の揺るぎない信念を感じる歌詞になっている。

しかし、一番、二番が終わった後の、いわゆる落ちサビと呼ばれているサビの歌詞を見ると、「きっと君と生きてくんだね」と、これまで「ずっと」だった歌詞がここに来て、「きっと」に変わっていることにお気づきだろうか。そして、最後のサビでは再び「ずっと」に戻っているのだ。揺るぎない信念を持ち、君との運命を悟ったはずの主人公が見せた不安や迷い、心の揺らいだ瞬間が唯一描かれている場面である。

実は、松本隆氏はそのような歌詞は書いていない。彼らの手元に届いた歌詞には、最初から最後まで「ずっと君と生きてくんだね」と力強いままのメッセージが書かれていたのだ。しかし、その歌詞に目を通した光一さんが、レコーディングに立ち会っていた松本隆氏に、「ここ(落ちサビ)を『きっと』に変えてもらうことはできますか?」と頼んだのだ。松本隆氏はその要望に快く承諾し、現在の歌詞になったという経緯がある。


なぜ、光一さんは落ちサビだけ「きっと」に変えたいと思ったのか、変えた方がいいと思ったのか、明確な理由は分からない。分からないけど、恐らく、当時の自分を歌詞の主人公と重ねたからではないだろうか。

多忙な日々に追われ、寝る暇もなければ記憶もない。変わっていく環境と積み重なる重圧に耐え切れなかった繊細な剛さんの心と身体は悲鳴をあげていた。一方、人より肉体的にも、精神的にも強かった光一さんは、決して表にはその姿を見せることはなかったが、当時を振り返り、「しんどかった」と思わず口にしたことがある。人より少し強かったと言えど、彼も剛さんと同じ不安や迷いを抱え、プレッシャーに耐え続け、心に傷を負っていたのではないかと思う。

たまたま同じ年に100日違いで、同じ姓の元に、同じ性別に生まれ、同じ家族構成の中で、同じ関西地方で育ち、同じタイミングでジャニーズ事務所にそれぞれの姉が履歴書を送り、同じタイミングで社長の目に留まり、横浜アリーナで彼らは出会った。当時、12歳の出来事である。

そして、これまでの様々な偶然は実は必然であり、出会うべくして出会った二人であるという事実がまるで証明されていくかのように、彼らの人生は凄まじいスピードで変わっていった。


そんな運命を感じながらも、目の前の仕事をただただこなしていくだけの毎日に、見えない未来に、つないだ手を離さなければいけない日がいつか来るのではないか、と不安や迷いを感じたこともあったはずだ。そんな時に、彼はこの曲の主人公と自分を重ねたのだろう。「ずっと」なんて言える未来はこの世界には存在しない、と。だけど、君と生きていたい、君と生きていくんだ、という彼の願いはこの曲に、「きっと君と生きていくんだね」と形を変え息衝いた。

そして、この歌詞を自分ではなく、生きることに疲れ果てていた剛さんに、「きっと君と生きていくんだね」と歌わせ、自分は「どんな辛い未来が来ても 二人だったら乗り切れるさ」と歌うよう割り振りしたのである。今思えば、この歌詞は光一さんが自分自身に向けた願いであると共に、「どんな辛い未来が来ても 二人だったら乗り切れるさ」と自分が歌うことで、剛さんに向けたメッセージでもあるのではないか、と思ったのだ。

彼らが10周年の年に発売した「39」には、ファン投票で選ばれた上位TOP10を1位から順に「YOUR FAVORITE」と題し収録している。*1 光一さんと剛さんもそれぞれ好きな曲を14曲選び、「KOICHI'S FAVORITE」「TSUYOSHI'S FAVORITE」と題し収録しているのたが、その中で光一さんは同じく松本隆氏が作詞した「このまま手をつないで」を選曲している。ザ・アイドルなポップなメロディーに乗せ、「このまま手をつないで夢見よう 夜明けまで二人きりで」と二人の永遠を歌った曲である。そして、歌詞の中にも「好きな言葉は永遠」と出てくるのだ。

私はこの時に確信した。「ずっと君と生きてくんだね」という歌詞を落ちサビだけ「きっと君と生きてくんだね」と書き換えた意味を。だけど、最後の最後は「ずっと君と生きてくんだね」とハッピーエンドにさせた意味を。

あれから17年経ったって、今だってそれぞれに迷いや不安を抱えているし、未来のことなんて少しも分かりやしない。彼が「きっと君と生きてくんだね」と書き換えたように、つないだ手を彼は一度は離そうとしたこともあった。だけど、何が起きたって、決してその手を離すことはなかった。


永遠なんてないと知りながらも、彼は永遠を夢見て、彼らはまだ夢の中を生きている。

*1:ボクの背中には羽根がある」はファン投票で6位。